LGBTQセレクトライフ制作話。遊んで学べるLGBTQのためのボードゲーム

LGBTQセレクトライフ制作話

トランスジェンダー男性の鈴木優希氏とDe pouletにて共同制作しリリースした、LGBTQの人生をなぞるすごろくゲーム「LGBTQセレクトライフ」その開発について鈴木優希氏と合同会社De pouletの齋藤寿修でお話をしたいと思います。
(取材:伊山大策【DAIクリエイト】)

ーーお二人のことをお伺いしてもよろしいでしょうか。まずは監修の鈴木優希さんからお願いいたします。

鈴木優希(以下、鈴木) 私、鈴木はトランスジェンダー男性で、LGBTQではTに当たります。英理子として女性の体で生まれましたが、幼少期から性に違和感を感じていました。
恋愛相手は女性であったがレズビアンではなく、男性として女性を愛したいと感じていました。仲のいい女友達に好きな男性ができたと聞いたときにはショックでしたね。
進路も男性が就くようなものでプロ野球選手やビジネスマンに憧れていましたね。
結局、そのころはカミングアウトやもちろん性転換もできていなかったので、女性だけど少しでも好きな格好ができるような職業を探して、目指した先が美容師でした。
ちなみに美容師の専門学校時代に初めて彼女ができました。その子が初めてカミングアウトをした人になります。まあ、美容師はそんな理由で就いたので特に関心がなく、数年働いた後に今もしている水商売の道へ進むことになります。
水商売も実は最初は女性としてスナックで働いていて、結構人気もありました。しかし心では女を使って仕事をしている自分に苦しさを感じていました。そんな時、商売で働くトランスジェンダー男性、いわゆる「オナベ」の方と出会って自分の心が大きく動き始めました。スーツを着て男性として堂々とイキイキと働いている姿と、かたや自分を偽って「ホステス」をしている自分にギャップを感じ、23歳でカミングアウトをして自分も「オナベ」として仕事をすることを決心いたします。
性転換はその3年後くらいから行うようになり、戸籍も男性になっております。今では自分のオナベバーを15年以上経営しています。
鈴木優希

ーーありがとうございます。制作をされた合同会社De pouletの齋藤さんはLGBTQの当事者ではないようですが、どういった方なのでしょうか。

齋藤寿修(以下、齋藤) 私は現在、主にマーケティングの会社を経営しております。
取引先は多岐に渡り特にLGBTQのことだけを仕事にしているわけではございません。鈴木優希氏との出会いはもう8年ほど前になります。
当時、私は別の会社を経営しており、美容系ということもあってお客様に繁華街の方が多くいました。
それがきっかけでジェンダーレスバーへ足を運ぶこともあり、ニューハーフやオナべの方と交流することが多くなります。いくつか仕事をご一緒させていただいたこともございます。
またトランスジェンダー女性の方と交際をしたこともあり、特に偏見を持っていません。この言葉を自分で使うことははばかられますが、いわゆるLGBTQフレンドリーになるものと思います。特に鈴木氏とはプライベート、仕事共に仲良くさせていただいています。
齋藤寿修

大手メーカーのすごろくゲームがLGBTQの当事者には馴染まなかった

ーーその2人の出会いがこのすごろくゲームを作り出したきっかけはなんだったのでしょうか。

齋藤 元々は鈴木さんから、40歳をきっかけにLGBTQの方のために活動をしたいというのを聞いたのが始まりでした。

鈴木 はい、ちょうど流行病で休業が多かったことから、今後のことを齋藤さんに相談したことがきっかけです。

齋藤 そこでまず作ったのが鈴木さんの経験を発信することを目的としたHP作成でした。そこでは今までLGBTQとして培ってきたことを文章にして発信を始めました。

鈴木 ホームページにはLGBTQの基本的なことはもちろん、私がトランスジェンダーとして実際にあったことを記事にしています。カミングアウトや性転換、そしてオナベバーでの経験などが書いてあります。これが最初のきっかけです。

齋藤 そしてその中で講演会などで、さらなる情報発信をしていく予定だったのですが、流行病による行政からの要求で多くの人を集めるイベントの開催がなかなか難しく、実行ができませんでした。

鈴木 そこでできる範囲で少人数でも交流会をしようと思い、私が代表となって「LGBTQ社会人交流会 BRUSHUP」を開催するようになります。
世の中のLGBTQの人たちは世間のイメージよりも強い人が多く、自分をさらに磨きたいと思っている人は多いのです。そのため、この会では同じ境遇で経験を共有し社会人としてさらなる飛躍をしていくための会としています。名前もそういった意味を込めてBRUSH UPとしました。いままであったような、マイナスなイメージなお互いを慰め合うわけではない交流会とは違うものを開催しています。

齋藤 このBRUSH UPはセレクトライフのパッケージにも連名で書いてありますね。
そしてこのBRUSH UP内で「LGBTQの人だけで遊んでみたいですね。ボードゲームとかしてみたい。」という一言からセレクトライフ誕生の最初のきっかけです。

ーーBRUSH UPのお話がきっかけに繋がるんですね。

鈴木 その言葉を聞いてまずは当然ながら、大手メーカーのすごろくゲームを遊んでみました。
そのゲームは当たり前のように男女で恋愛をして、絶対に結婚ができる。職業はなんとなく男女で分かれてる感じ、結婚さえしてれば子供が産まれる・・・これがどうもLGBTQの当事者としては馴染まなかったのです。起きるライフイベントに全く共感ができませんでした。

齋藤 そこで我々でLGBTQの人でも遊べるようなすごろくゲームを作ったら面白いのではないか。という話になったのです。
それがLGBTQセレクトライフの誕生の瞬間です。

ーー当事者である鈴木さんだけでなく、当事者でない齋藤さんが携わっているのに理由はあるのでしょうか。

鈴木 一言で言えば、当事者でない方の目線を忘れないためです。私はごくごく普通に日常を過ごしているつもりでいてもやっぱり、LGBTQを優先して欲しい、してあげたいという欲がでてしまいます。この部分に囚われて作ってしまうと、内容がLGBTQに都合が良すぎるゲームになってしまい、日常とはかけ離れた夢物語のようなゲームになってしまいます。そしてその周りの人から倦厭されてしまいかねません。

齋藤 そうですね、LGBTQに偏見がなく、多くのLGBTQの方と関わってきた身として誠実に、当事者でも当事者でなくても違和感がないゲームに仕上げられるよう考えております。

LGBTQセレクトライフのコマ

ただ楽しめるゲームにするか学べるゲームにするか迷った

ーーゲームを作る時に考えたことはどのようなことですか。

鈴木 元の発端がLGBTQ同士で楽しみたいということだったので、最初は難しく考えずLGBTQの要素を入れたワイワイ楽しめるゲームでいいかなと思っていました。
それで齋藤さんとどうするか話し合って、当事者としてどういったライフイベントがあったか、何が楽しくて、何が大変だったかを色々絞り出してみました。私の生い立ちなどは齋藤さんに何度も話していて、おもしろいエピソードもたくさんあったのですが、冷静になってもう一度話してみました。

齋藤 今まで鈴木さんから聞いていたエピソードって本当に面白いので、さぞ楽しいだけのゲームになるのだろうと思っていました。けど、それは違っていて、どんな厳しいエピソードでも鈴木さんが面白く話すのが上手だっただけんですよね。冷静に聞いてみると、結構辛いというかなんというか・・・

鈴木 だからその辛い部分を省いて楽しいエピソードだけでワイワイ楽しいゲームを作ることを考えたのですが、それが難しかったんです。無理をしている感じというか、嘘をついている感じがしました。正直、ライフイベントとしてLGBTQだから楽しかったことはあるんですが少なくて、むしろLGBTQだからこそ悩んだことの方が多かったんですよね。

齋藤 これを無視してゲームを作っていいのだろうか、目的としているワイワイするゲームがこのままでは作れないなと、少し焦りました。
しかし、周りの他のLGBTQの方に意見を聞いてみると、「そういうのも含めて私たちの人生だから無視をしてはいけない、それを知って何かを感じてもらうことが重要だと思う」と、教えられました。

鈴木 それで良いことも辛かったことも全てマスに入れるようにしました。

ーーゲームのマスには少し厳しく感じるような内容もあるなぁと感じていたのですがそのような理由があったのですね。

鈴木 過去のエピソードを面白かったよね、と思う人もいれば辛いと感じる人もいるかもしれない、けれどその都合の悪いことを消してしまっては何も中身のないゲームになってしまう、そう思ったのです。

齋藤 そして、「知って何かを感じてもらう」という言葉をきっかけで楽しむだけのゲームじゃなく、せっかくならリアルに勉強できるゲームにもしようと考えるようになります。
LGBTQ当事者が遊ぶだけでなく、もしかしたらLGBTQかもと思っている人、周りにLGBTQがいる人、社会の勉強として知りたい人。せっかく、LGBTQの生活を体験できるすごろくならそういった方にも遊んでいただけるようになればと思い、内容を大幅に変更しました。

鈴木 ここからは少し大変でした。せっかく学習用にも作るのであればしっかりとLGBTQのことをゲームに入れなければと思い、それをルールにするのに手こずりました。
LGBTQとしてはカミングアウト、性転換、就職、結婚などはまず考えることなので、それはゲームに取り入れるようにすること。例えば、カミングアウト、当事者ならした方がいいと思われがちですが、実際にはカミングアウトは良いこともあれば辛いこともあります。友達や恋人ができる良い点もあれば、今までの友達が離れたり仕事において不利となることもあります。性転換も身体が自分の理想に近づく一方で、病気や保険、職業選択のリスクなどが伴います。そのような内容をマスの内容に入れて、「カミングアウトをしていると〇〇が起こる」「性転換をしていると〇〇が起こる」といったようにしています。LGBTQの人の悩みを体験してもらう上で、このあたりをルールにいれることは重要事項でした。

齋藤 現実での複雑さをどれほどまでゲームに取り込むのか、全てをリアルにするとルールが複雑になり過ぎてしまうのでその辺りの兼ね合いは特に難しかったですね。
結婚やパートナーもやはり無視ができない点で、現在の日本の法律では同性婚が認められていないですから、その中で自分が求める理想に対してどう選ぶのかを考えて欲しいと思いました。

鈴木 その結果として、自分がきっかけであるカミングアウトと性転換はプレイヤー自身が選べるルールとして、就職や結婚などはマスによる指示で内容が変わるようにしています。

ーーゲームで就ける職業もこだわりがあるように見えます。

鈴木 そうですね。特に、私の職業でもある水商売に就けるようにしています。一般的に販売されているLGBTQ関連の書籍ではなぜか殆ど語られることがないですが、LGBTQと水商売は実は切っても切れません。メディアに出ているトランスジェンダー女性、いわゆるニューハーフとされる方は実は水商売の方が多いんですよね。世の中のLGBTQの割合的にも水商売についている人は多いです。そして、幼少期にトランスジェンダーを知るきっかけであるニューハーフやオナベに憧れているトランスジェンダーの人は多く、実は水商売に関心がある人はたくさんいます。そういった方が憧れの水商売に就くべきかを選択できるようにもしています。

齋藤 他にも昨今オリンピックで話題になるアスリートを職業に入れてみたり、性別重要視される職業を考えてみたりしています。

鈴木 性別を気にせず採用するLGBTQフレンドリー企業が増えてきているものの、正直なところまだ現実では性別は意識せざるを得ません。

齋藤 カミングアウトをしていることで就職活動にどう響くか、性転換をすることで今就いている職業はどうなるか。
自分らしく生きることによる職業への影響を考えて欲しいと思っています。
LGBTQセレクトライフの職業

ーーLGBTQ交流会にてテストプレイをされているようですが反応はどうでしたか。

齋藤 このゲームは8割くらい完成した段階でLGBTQ社会人交流会 BRUSH UPにて4人×2グループでテストプレイをしています。
学習用にリアルにつくるという方針で作ったベータ版だったので、本製品と方向性は変わらないもので遊んでいます。

鈴木 遊んでくれたのは当事者が7名と齋藤さんでした。元から知り合いだった人もいれば、会で出会った初めての人もいて、忖度ない感想をもらいました。

齋藤 当初はLGBTQのことを盛り込んだルールが少しわかりづらいというのがありました、これはマニュアルがまだできてなかったことが原因でしたね。

鈴木 厳しいかなと思っていたマスの内容は遊んでみると意外とワイワイと楽しめる感じでした。
リアルの自分が歩まなかった人生として水商売を選んでそこで起こる出来事を楽しんでいる人もいました。
もちろん、全員が全員ってわけではなく、中にはゲームでも悩むのかという感想を受けていた人もいましたが、その分リアルにできたのだと考えています。

齋藤 本製品が完成した後にレズビアンの方2人と遊ぶきっかけがあったのですが、その方々は自分達を主体にしてくれたゲームがあるだけで楽しいと言ってましたよ。

セレクトライフは本で読むだけじゃなく、体験ができる学習ツール

ーーこのゲームを遊んで欲しいのはどのような方ですか。

鈴木 まず第一に当事者の方です。今までの人生を振り返ってワイワイとお酒なんかを呑みながら楽しんで欲しいですね。また、悩んでいる最中の方でもこれから起きるライフイベントで何が起きるのかを知ってもらい、上手に回避するためのツールとして考えてもられると良いと思います。あと、自分がそうかもしれないと思い始めた人にもおすすめです。LGBTQの悩みは思いが強くなり過ぎてしまうことがあるので、ゲームでどのような問題が起きるかを理解しておくことで現実と理想を知り、冷静に状況を考えてもらえるようになると思います。

齋藤 当事者でない方にもたくさん利用して欲しいです。一番はご家族などの当事者の周りの方です。多くの方は自分の家族がLGBTQだと聞くと困惑をすると思われます。自分の子供が苦労をするのを避けたいという気持ちと、考えを尊重してあげたいという気持ちとで葛藤するのです。そんな方に何がライフイベントとして具体的に問題となるかを理解することで、冷静に対処ができ守ってあげられることが多いと思います。他にもこれからLGBTQフレンドリーを取り組む企業が、ただ言われたことをするだけでなく、一度LGBTQの人生を体験することで本当に必要なことがわかり、より寄り添った形で取り組むことができるのではないでしょうか。

鈴木 多感な時期の生徒と関わる教育関係者にも利用をして欲しいです。今の風潮では生徒を否定せず尊重してあげることが良しとされていますが、よく理解せず軽々しく言葉を並べるのは無責任になってしまいます。

齋藤 「あのとき先生がいいって言ったから性転換したのに!」なんて後から言われてしまったりね。

鈴木 だから先生は具体的に何が良くて何が問題になるのかを理解した上で、生徒の気持ちを尊重してあげる必要があります。
セレクトライフは本で読むだけのものと違い体験ができるのでLGBTQの気持ちを理解しやすい学習ツールとしてとてもおすすめです。

齋藤 当事者でない方がよりなりきってゲームができるようにするための商品も考案中です。

ーーセレクトライフの今後の展望はございますか。

鈴木 まずは一回でもいいからゲームを遊んでもらいたいというのがあります。そのため、私が主催しているBRUSH UPでプレイする機会を設けたいと考えています。

齋藤 他にも親御さんや教育関係者を中心としたセミナーの開催も予定しています。
セレクトライフで遊んでもらうだけでなく、それに付随した補助教材などを用いてより専門的にお話をしたいですね。なぜ性転換をするとそうなってしまうのか、就職活動ではどうした方がいいのかなど、少し掘り下げたことをお話ししたいと考えています。

齋藤寿修と鈴木優希

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。